イタリアンスタイル・ピルスナーは、アメリカのブルワーズ・アソシエーション(以下 BA)が2024年11月に新設した公式スタイルです。ジャーマンスタイル・ピルスナーと数値規格はほぼ同一で、分かれ目は製法のたった一点にあります。原点は1996年、北イタリアの Birrificio Italiano が出した Tipopils という一本です。
公式スタイルになったのは2024年11月です
BA は2024年11月15日付でビアスタイルガイドラインを更新し、Italian-Style Pilsener(イタリアンスタイル・ピルスナー)を収録しました[1]。この版で新しく加わったスタイルは、これ1つだけです[2]。
BA が示した位置づけは、伝統的なジャーマンスタイル・ピルスナーとノーブル品種のホップ(ビールに苦味と香りを与えるつる性植物の毬花)を組み合わせたものです[2]。そのホップを大量にドライホップ(発酵後半以降に、加熱せずホップを漬け込む技法)する点が要になります[2]。前年の2023年版ガイドラインには、同じ名前の項目がまだありません[3]。
ここは取り違えやすい点です。翌2025年版では7スタイルが一度に追加されました[4]。内訳はメキシカンスタイル・ラガーの4区分、チェコスタイルのアンバーとダーク、そして West Coast-Style Pilsener で、イタリアンスタイル・ピルスナーは入っていません[4]。7スタイル側の話は西海岸ピルスナーの記事で扱いました。
さらにその翌年、2026年版で新設されたのが Rice Lager です[5]。3年続けてラガー(低温で長く発酵させるビールの大分類)の項目が増えた形になります。日本の米とラガーの関係はライスラガーの記事にまとめています。
審査基準ごとの温度差も残っています。ホームブルーイングの審査で広く使われる BJCP 2021年版ガイドラインには、イタリアンピルスナーの独立項目がありません[7]。Tipopils と Firestone Walker の Pivo Pils は、34B Mixed-Style Beer という受け皿の部門に商業例として載っています[7]。ニュージーランドピルスナーが X5 として独立枠を得ているのとは、扱いが分かれました[7]。
数字はジャーマンピルスナーと完全に同じです
BA 2026年版が定めるイタリアンスタイル・ピルスナーの数値を並べます[5]。ABV(アルコール度数)4.6〜5.3%、IBU(ビールの苦味度を示す数値)25〜50、SRM(ビールの色の濃さを示す数値)3〜4です[5]。
この3つの数字は、ジャーマンスタイル・ピルスナーの規格とぴたり一致します[5]。違いが出るのは、数値ではなく条文の文章のほうです。
ジャーマンスタイル・ピルスナーの条文には「late hopping (not dry hopping)」と括弧書きが入り、ドライホップをはっきり排除しています[5]。イタリアンスタイル・ピルスナーは同じ位置が「late hopping and dry hopping with noble-type hops」に書き換わります[5]。
ずれはもう2箇所あります。ボディはジャーマンが「低〜中低」、イタリアンが「中低〜中」です[5]。色の上限も、ジャーマンの「淡色まで」に対してイタリアンは「ゴールドまで」認められています[5]。
近い4系統を横に並べると、位置関係が見えてきます。数値はすべて BA 2026年版ガイドラインからの引用です[5]。表中のノーブルホップとは、ドイツやチェコの伝統品種で、花やハーブを思わせる穏やかな香りを持つ一群を指します。
| スタイル | ABV | IBU | SRM(色) | ホップの入れ方 | ボディ |
|---|---|---|---|---|---|
| イタリアンスタイル・ピルスナー | 4.6〜5.3% | 25〜50 | 3〜4 | ノーブルホップの後半添加+ドライホップ | 中低〜中 |
| 西海岸スタイル・ピルスナー | 5.0〜6.0% | 30〜50 | 2.5〜6.5 | 大量のドライホップ。煮沸はノーブル系でも現代IPA系でも可 | 低〜中 |
| ジャーマンスタイル・ピルスナー | 4.6〜5.3% | 25〜50 | 3〜4 | ノーブルホップの後半添加のみ(ドライホップ不可) | 低〜中低 |
| チェコスタイル・ペールラガー | 4.6〜5.1% | 20〜45 | 4〜7 | ノーブルホップの煮沸後半添加 | 中 |
BA はイタリアンと西海岸の境界を、1行の規定で切っています。ヨーロッパ産のノーブルホップでドライホップしたビールはイタリアンスタイル・ピルスナーに分類する、という一文が西海岸スタイル・ピルスナーの条文側に書き込まれています[5]。判定の軸は醸造所の所在地ではなく、漬け込むホップの品種にあります。
出発点は1996年、コモ湖の南にある小さな醸造所です
Birrificio Italiano は1994年、ロンバルディア州ルラーゴ・マリノーネで Agostino Arioli 氏が立ち上げました[8]。一般に開かれたのは1996年4月3日で、最初に出したビールが Tipopils と Rossoscura の2本です[8]。
公式サイトは Tipopils を「1996年生まれ、史上初のドライホップ・ピルスナー」と紹介しています[9]。ABV は 5.2%、刈りたての草を思わせるハーブ香のあとに、モルト(ビールの原料になる麦芽)由来の蜂蜜のような甘さが続くと説明されています[9]。
Arioli 氏本人の説明によると、着想元はラガーではなくイギリスのカスクエールでした[10]。イギリスの醸造家が樽にホップを放り込むのを見て、同じことをラガーでやってみたと語っています[10]。
ホップはドイツのノーブル品種をひととおり試したうえで、Spalter Select に落ち着いたそうです[10]。ラガリング(低温で寝かせて味を整える工程)中の約2℃のビールに、水に溶かしたホップを吹きかける手順を採っています[10]。
BA の条文にある「泡は密で純白、そして長持ちすること」「ホップの表現は強く、キレがあり、香り高いこと」という記述は、この一本が示してきた輪郭とよく重なります[5]。ひとつの銘柄が、そのままスタイルの定義になった珍しい例です。
アメリカに渡った先で、系譜が二股に分かれました
橋渡し役になったのが、Firestone Walker の Pivo Pils です。2013年に登場したこのビールは Tipopils に着想を得ており、ドライホップにはドイツ産の Saphir を使っています[11]。
Russian River の STS Pils も同じ発想の一本です。公式サイトは「ドイツスタイルのピルスナーに Russian River 流のひねりを加えたもの」と説明し、ヨーロッパ産ホップを少量ドライホップすると明記しています[12]。
同じドライホップでも、太平洋岸北西部や南半球のホップに替えると、BA の分類では西海岸スタイル・ピルスナーの側へ移ります[5]。松脂や柑橘、トロピカルフルーツの方向に大きく振れる品種群です。
イタリアンと西海岸は、対立する2つのスタイルではありません。ドライホップという同じ技法を、どのホップに使うかで枝分かれした兄弟のような関係です。
受賞結果が示すイタリアンピルスナーの現在地
スタイルの成熟度は、審査会のエントリー数によく表れます。2026年のワールド・ビア・カップでは、イタリアンスタイル・ピルスナー部門(第42部門)に89点が集まりました[13][14]。前年2025年の GABF(グレート・アメリカン・ビア・フェスティバル)では第49部門に102点が集まっています[15]。
| 大会 | 賞 | 銘柄 | ブルワリー | 所在地 |
|---|---|---|---|---|
| WBC 2026 | 金賞 | Breakside It’s A Me Mario! | Breakside Brewery | アメリカ・オレゴン州ミルウォーキー |
| WBC 2026 | 銀賞 | Now That’s A Sandwich | Vault 202 Brewery & Taproom | アメリカ・ウィスコンシン州アップルトン |
| WBC 2026 | 銅賞 | Wassah Matta U | Synth Beer Co. | アメリカ・カリフォルニア州コスタメサ |
| GABF 2025 | 金賞 | Westbound Italian Pils | Westbound & Down Brewing | アメリカ・コロラド州ラファイエット |
| GABF 2025 | 銀賞 | Shatterlight | Ghost Town Brewing | アメリカ・カリフォルニア州オークランド |
| GABF 2025 | 銅賞 | M.O.E. | LazyG Brewhouse | アメリカ・アリゾナ州プレスコット |
WBC 2026 の金賞を獲ったのは、りほも訪れたポートランド近郊の Breakside Brewery です[13]。GABF 2025 では、デンバーの Westbound & Down Brewing が金賞、オークランドの Ghost Town Brewing が銀賞に入りました[15]。
2025年のワールド・ビア・カップでこの部門の金賞を獲ったのは、カリフォルニア州ウィンザーの Russian River Brewing Company の STS Pils でした[12]。ドイツスタイルを名乗る一本が、ホップの産地ゆえにイタリアンの部門で頂点に立った形になります。
選ぶとき・飲むときに効く3つのポイント
まず鮮度です。ドライホップ由来の香り成分は時間とともに落ちるため、缶や瓶の製造日が新しいものを選ぶ価値があります。IPA(ホップを大量に使う代表的なエール)を買うときと同じ感覚で日付を見てください。
3つめは、ラベルのホップ品種表記です。Spalter Select や Saphir、Hallertau Mittelfrüh、Tettnanger といったドイツ系の名前が並んでいれば、花・ハーブ・胡椒の方向に寄ります。Citra や Nelson Sauvin のような名前が中心なら、それはもう西海岸系の設計です。
ペアリングは、香りを邪魔しない塩気と噛み合います。生ハムやモルタデッラ、マルゲリータ、揚げたてのフリットあたりが手堅い組み合わせです。苦味が中〜高めなので、油をすっきり流してくれます。
イタリアンスタイル・ピルスナーの規格は、FG(最終比重。発酵が終わった時点の糖の残り具合を示す数値)が 1.006〜1.013 と幅を持っています[5]。ジャーマンピルスナーの上限 1.012 よりわずかに高い設定で、ボディを半段階厚くする余地がここにあります[5]。設計値の計算にはrihobeer の醸造ツールが使えます。
よくある質問(FAQ)
イタリアンピルスナーはいつ公式スタイルになったのですか
2024年11月15日付の BA ビアスタイルガイドラインです。この版で追加されたスタイルは Italian-Style Pilsener の1つだけでした。翌2025年版で追加された7スタイルには含まれず、そちらには西海岸スタイル・ピルスナーが入っています。年をまたいだ別々の追加なので、混同しないよう注意してください。
ジャーマンピルスナーとの違いは何ですか
ドライホップの有無です。ABV4.6〜5.3%、IBU25〜50、SRM3〜4という数値規格は両者で完全に同じで、ジャーマン側の条文だけが「late hopping (not dry hopping)」とドライホップを禁じています。イタリアン側はノーブルホップでのドライホップを認め、ボディと色の上限もわずかに広く取っています。
西海岸ピルスナーとはどう見分けますか
ドライホップに使うホップの品種で分かれます。BA は、ヨーロッパのノーブルホップでドライホップしたものはイタリアンスタイル・ピルスナーに分類すると明記しています。花・ハーブ・胡椒の香りならイタリアン系、松脂やトロピカルフルーツが前に出れば西海岸系と考えると、店頭でも判断に使えます。
BJCP のガイドラインにも載っていますか
2021年版 BJCP ガイドラインに、イタリアンピルスナーの独立項目はありません。Birrificio Italiano の Tipopils と Firestone Walker の Pivo Pils は、34B Mixed-Style Beer という受け皿の部門に商業例として挙げられています。ホームブルーイングのコンテストに出す場合は、主催者がどの基準を採用しているか事前に確認してください。
Tipopils はどこで飲めますか
Birrificio Italiano の定番銘柄で、日本国内でもイタリアビールを扱う輸入元経由でボトルや樽が流通することがあります。無濾過・無殺菌で造られているため、鮮度の管理が味を大きく左右します。取扱店の入荷時期を確認したうえで、できるだけ新しいロットを選ぶと本来の香りに近づきます。
日本でイタリアンピルスナーは造られていますか
ワールド・ビア・カップ2026および GABF 2025 の当該部門では、日本のブルワリーの入賞はありませんでした。ただしスタイル自体に産地の縛りはなく、ノーブルホップでドライホップしたピルスナーであれば分類上は該当します。クラフトビール専門店やブルワリー直営タップルームで、ドライホップ表記のあるピルスナーを探してみてください。
濁っていたら劣化しているのですか
イタリアンスタイル・ピルスナーの BA 規格は、外観を澄んだ状態とし、チルヘイズ(冷やしたときに出る濁り)を認めていません。濁りを低レベルまで許容する西海岸スタイル・ピルスナーとは、ここが異なります。ただし無濾過の輸入品ではわずかな酵母由来の曇りが出る場合もあり、酸味や紙のような香りを伴わなければ過度に心配は要りません。
📚 出典・参考情報
- 【一次】Brewers Association「2024 Beer Style Guidelines」(2024年11月15日付)PDF(cdn.brewersassociation.org)。Italian-Style Pilsener の項および表紙の発行日
- 【二次】Beer Today 2024年11月14日「Brewers Association’s Beer Style Guidelines updated」(beertoday.co.uk)。2024年版の新設スタイルが Italian-style Pilsener 1つのみである旨の記載
- 【一次】Brewers Association「2023 Beer Style Guidelines」PDF(cdn.brewersassociation.org)。Italian-Style Pilsener の項が存在しないことの確認元
- 【一次】Brewers Association「2025 Beer Style Guidelines」PDF(cdn.brewersassociation.org)。West Coast-Style Pilsener・Mexican-Style Lager 4区分・Czech-Style Amber / Dark Lager の各項
- 【一次】Brewers Association「2026 Beer Style Guidelines」PDF(cdn.brewersassociation.org)。Italian-Style / German-Style / West Coast-Style Pilsener および Czech-Style Pale Lager・Rice Lager の各項
- 【一次】GABF「2024 Competition Style Categories」PDF 第48部門(greatamericanbeerfestival.com)
- 【一次】Beer Judge Certification Program「2021 BJCP Beer Style Guidelines」PDF(bjcp.org)。34B Mixed-Style Beer の Commercial Examples および X5 New Zealand Pilsner の項
- 【一次】Birrificio Italiano「Our history」(birrificio.it)
- 【一次】Birrificio Italiano「Tipopils」商品ページ(birrificio.it)
- 【二次】Craft Beer & Brewing、Agostino Arioli 氏インタビュー(beerandbrewing.com)
- 【一次】Firestone Walker Brewing Company「Long Live Pivo」(firestonewalker.com)
- 【一次】Russian River Brewing Company「STS Pils」商品ページ(russianriverbrewing.com)。2025 World Beer Cup Gold Award – Italian-Style Pilsener の記載
- 【一次】World Beer Cup「Award Winners」公式受賞者一覧(worldbeercup.org)
- 【二次】American Craft Beer、2026年ワールド・ビア・カップ第42部門の集計(americancraftbeer.com)
- 【二次】Forbes 2025年10月11日、Don Tse 記者。2025年 GABF 第49部門(forbes.com)
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