DDH(ダブルドライホップ)は、発酵中〜発酵後のビールにホップを2回、または2倍量投入する醸造技術です。「dank(ダンク)」は、その結果生まれる大麻を思わせる香りを指す俗語で、2000年代半ば以降クラフトビール文化に定着しました。どちらも統一された定義はなく、ブルワーごとに解釈が分かれます。
DDH(ダブルドライホップ)とは何か——「2回」なのか「2倍」なのか
ドライホッピングとは、麦汁を煮沸したあとの発酵中または発酵後に、ホップ(ビールに苦味と香りを与えるつる性植物の毬花)を加える工程です。煮沸中に入れるホップと違い、苦味をほとんど出さずに香りだけを強く引き出せるのが特徴です。
「ダブル」ドライホップが何を意味するかは、ブルワーの間でも解釈が割れています。Anchor Brewingの醸造責任者Scott Ungermann氏は「本質的には2回のドライホッピング、または2倍の量のホップを使用すること」と説明しています[1]。一方でCarton BrewingのAugie Carton氏は異論を唱えています。比較対象となる「シングル」ホッピングの基準が存在しない以上、「ダブル」という表現自体が不正確だという指摘です[1]。実質的には「大量の後期ホッピング」を指す造語になっている、というのがCarton氏の見立てです[1]。Sixpoint BreweryのEric Bachli氏は「樽ごとのホップ量を2倍にし、単一ホップビールと同時期にまとめて、または分割して添加する」という定義を挙げています[1]。
統一基準がないぶん、DDHは技術用語であると同時にマーケティング上のラベルとしても機能しています。Hazy IPA(発酵由来の濁りを特徴とするIPA)の流行と歩調を合わせて広まった経緯があり、「DDH」の表示自体が「香り重視で作り込んだ一本」という目印になっています。
「dank」の語源——大麻文化から来た醸造用語
「dank」がビール文化の語彙として定期的に使われ始めたのは2000年代半ば〜後期のことです[2]。それ以前、この語はもっと即物的な意味で使われていました。1984年出版のJames D. Robertson著『The Connoisseur’s Guide to Beer』の用語集を見ると、それがよく分かります。同書での定義は「slightly moldy, as the smell in a damp basement(やや湿ったものの臭い、湿った地下室の臭いのような)」というものでした[2]。当時は、褒め言葉ではなかったのです[2]。
一方で「dank」は50年以上前から、新鮮で強い香りの大麻を指すアメリカのスラングとしても使われてきました[2]。クラフトビールの隆盛とアメリカでの大麻合法化の広がりが同時期に進んだことで、この二つの意味が接近し、「dank」は「湿った地下室の悪臭」から「魅力的な樹脂香」へと評価が転じていきました[2]。
なぜホップは大麻に似た香りがするのか
これは偶然の連想ではなく、植物学的な裏付けがあります。ホップ(Humulus lupulus)と大麻(Cannabis sativa)はどちらもアサ科(Cannabaceae)に属する近縁種です[3]。両者は共通の祖先を持ち、香気成分の構造が似通っているため、”cannasulfur compounds”と呼ばれる硫黄含有化合物をはじめ、重なり合う揮発性有機化合物を多く含んでいます[3]。
「dankさ」の強さはホップ品種によっても差があります。代表格として挙げられるのは3品種です[3]。パッションフルーツやパイナップルを思わせるトロピカル感とdankさを併せ持つNectaron®。松脂の香りにベリーのニュアンスが乗るSimcoe®。そして強いdanknessが特徴のStrata®です[3]。DDH製法でこうした品種を発酵中〜発酵後に厚く投入することで、dankな香りはさらに前面に出てきます。品種を開発したIndie Hops自身の公式ブリーイングプロファイルは、Strataの香りをこう表現しています[4]。「passionfruit, melon, strawberry, grapefruit, rock concert cannabis and dried chili peppers」。”rock concert cannabis”という、踏み込んだ描写です[4]。3品種を横に並べると、dankさの出方の違いが分かります。
| 品種 | 主要な香り | dank強度の傾向 | 相性の良いスタイル |
|---|---|---|---|
| Strata® | パッションフルーツ・メロン・イチゴ+樹脂 | 強 | Hazy IPA・West Coast IPA |
| Simcoe® | 松脂・ベリー | 中 | IPA全般 |
| Nectaron® | パッションフルーツ・パイナップル | 弱〜中 | Hazy IPA |
DDH・dankなビールに出会えるブルワリー
rihobeer.comでこれまで訪問してきたブルワリーの中にも、DDHやdankを看板に掲げる造り手がいます。実際の店舗の様子は各訪問記にまとめています。
- Monkish Brewing アナハイム店——DDH Hazy IPAを軸に、醸造設備を間近に見られる訪問記です。
- Ghost Town Brewing(オークランド)——ダンクIPAで知られるオークランドの造り手です。
- Other Half Brewing Co.(ブルックリン)——東海岸のDDH系IPAを牽引する存在として紹介しています。
- Fieldwork Brewing Co. Santa Rosa——Hazy IPAを主力に据えるサンタローザの醸造所です。
タップリストでDDH・dank表記を見つけたときのポイント
- 「DDH」に統一基準はない前提で読む:ブルワリーごとにホップ投入量・タイミングの定義が異なるため、同じ「DDH」表記でも香りの強さは店によって差があります。
- 鮮度が命:ドライホップ由来の香気成分は経時変化で失われやすい性質があります。Hazy IPA系は製造から時間が経つほど香りが落ち着くため、できるだけ新しい入荷を選ぶのがおすすめです。
- 苦手なら「クリーン系」に切り替える:dankな樹脂香が強すぎると感じたら、上記の西海岸ピルスナーやジャーマンピルスナーなど、ドライホップを抑えたスタイルから探すのも一つの方法です。
よくある質問
Q. DDHとIPAはどう違うのですか。
A. IPA(India Pale Ale)はビアスタイルの分類、DDHはその中で使われる醸造技術の一つです。「DDH IPA」のように、スタイル名に技術名を重ねて表記されるのが一般的です。
Q. dankは必ず大麻のような香りがするのですか。
A. 樹脂・松脂・トロピカルフルーツを思わせる香りを指すことが多いですが、品種や発酵条件によって表れ方は変わります。強い場合は好みが分かれるため、初めての一杯は少量から試すのがおすすめです。
Q. DDHのビールにアルコールは強いものが多いですか。
A. DDHはホップの使い方を指す技術用語であり、アルコール度数とは直接関係ありません。低アルコールのセッションIPAでDDH製法を使う例もあります。
Q. DDHとホップバーストは同じものですか。
A. 別の技術です。ホップバーストは煮沸終盤に大量のホップを投入する手法、DDHは発酵中〜発酵後にホップを追加投入する手法を指します。両方を組み合わせて使うブルワリーも珍しくありません。
Q. Nectaron・Simcoe・Strata以外にもdank系の品種はありますか。
A. あります。本記事で代表格として挙げた3品種以外にも、ブルワリーやホップ農家が独自にdank系と紹介する品種は複数存在します。気になる銘柄があれば、缶や公式SNSに記載された使用ホップ品種を確認してみてください。
出典
- 【二次】VinePair、Cat Wolinski記者、2018年3月6日「WTF is DDH? It Depends on Whom You Ask.」(vinepair.com)
- 【二次】PUNCH「Craft Beer Is “Dank” Again」(punchdrink.com)
- 【二次】Abstrax Hops「Hold My Beer: Dank Flavors in Brewing Science」(abstraxhops.com)
- 【一次】Indie Hops「Strata」品種公式ページ・ブリーイングプロファイル(indiehops.com)
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