アサヒスーパードライ・キリンラガービール・サッポロ生ビール黒ラベルは、いずれも公式の原材料表示に「米」が入っています[1][2][3]。米を使うラガーは2026年、アメリカのブルワーズ・アソシエーションが「Rice Lager」として独立スタイルに認定しました[12]。日本のラガーは「薄いビール」ではなく、米という副原料を軸にした設計思想の一系統として読み直せます。
コンビニの棚に並ぶ日本のラガーを、あなたはどう説明しますか。「軽い」「クセがない」あたりが定番の答えです。ですが原材料表示を読むと、もっと具体的な輪郭が見えてきます。鍵になるのは米です。
2026年、「ライスラガー」が公式スタイルになりました
アメリカのクラフトビール業界団体ブルワーズ・アソシエーション(以下 BA)は、2026年1月13日に公開した最新のビアスタイルガイドラインで「Rice Lager」を新設しました[12]。技術部門ディレクターのチャック・スカイペック氏は、追加の理由を説明しています。「西海岸スタイル・ピルスナーやイタリアン・ピルスナー、チェコおよびメキシカンラガーの追加と同じです。新しい潮流へ素早く応える取り組みの一環です」[12]。ここで挙げられた西海岸スタイル・ピルスナー自体は2025年に追加されたスタイルで、ライスラガーより1年早い収録です。
規格の中身も明快です。BA は Rice Lager を「米を15%以上使って造られるビール」と定義しています。数値規格は ABV(アルコール度数)4.0〜6.0%、IBU(ビールの苦味度を示す数値)15〜30、色は SRM(ビールの色の濃さを示す数値)2〜6 です[11]。ホップ(ビールに苦味と香りを与えるつる性植物の毬花)は「モルト(発芽させた大麦を乾燥させたもの。糖の主原料になる)と調和し、突出しない」ことが条件です[11]。
実戦の場にも登場しました。世界最大級の審査会ワールド・ビア・カップでは2026年に Rice Lager 部門が初めて設けられ、91点のエントリーを集めています[13]。金賞はりほも訪れたシアトルの Cloudburst Brewing、銅賞はオレゴン州フッドリバーの pFriem Family Brewers「Japanese Lager」でした[13]。pFriem の醸造責任者は「伝統的な副原料ラガーのダブルマッシュで生米を15〜17%配合している」と明かしています[13]。
ひとつ注意点があります。ホームブルーイングの審査基準として広く使われる BJCP 2021 ガイドラインには、独立した「ライスラガー」も「ジャパニーズラガー」も存在しません。米はあくまで副原料として扱われています。American Lager(1B)では「最大40%の米またはコーン」[14]、International Pale Lager(2A)では「米・コーン・糖類を使うことがある」という記述です[15]。「ライスラガー」は BA が2026年に採用した比較的新しい呼称で、Untappd では以前から「Lager – Japanese Rice」というスタイル区分として流通してきました[16]。呼び名の歴史はまだ浅い、という前提で読み進めてください。
日本の大手ラガーは、ラベルどおりのライスラガーです
各社の公式製品ページを開くと、原材料表示はほぼ同じ並びになります。
上の3銘柄は米・コーン・スターチを併用しています。一方で一番搾りは麦芽とホップだけです[4]。つまり「日本のラガーはすべて米入り」ではありません。同じメーカーの中でも設計が分かれています。ここを混ぜると話が雑になります。
米が入った理由は、味の設計より先に原料事情でした
日本のビールはドイツ式から始まりました。1876(明治9)年、北海道に開拓使麦酒醸造所が誕生します。主任醸造者を務めたのは中川清兵衛で、ベルリン最大のビール会社での2年2か月の修業を経て1875(明治8)年8月に帰国した人物です[7]。日本人として初めて本格的にドイツのビール醸造法を修めたと記録されています[7]。
そのドイツ式が、どこで米と出会ったのか。キリン歴史ミュージアムの記述が具体的です。「国内では遅くとも明治30年代には副原料として米が使用されていた」とあります[6]。副原料とは、麦芽以外に糖の供給源として加える原料のことです。
転機は戦時中でした。1940(昭和15)年の酒税法改正でビール原料にでんぷん類の使用が認められます。この改正は米不足を背景に、米以外のものを副原料とすることを推奨する内容でした[6]。副原料の使用量の上限も、麦芽重量の10分の3から2分の1へ引き上げられています[6]。1944(昭和19)年には米すら使えなくなり、麦芽とでんぷんによる醸造へ移りました[6]。
興味深いのはその後です。「戦後に原料の制約がなくなっても明治時代のような濃厚なビールはつくられなかった」と同館は記しています[6]。配給で広く飲まれた淡白な味に、人々が慣れたためと説明されています[6]。制約から生まれた味が、そのまま国民的な好みとして定着したわけです。
酒税法が引いている線
現行の酒税法は、麦芽・ホップ・水に加えて一定の副原料を使ったビールを「ロ号ビール」として認めています。国税庁の資料によれば、その副原料とは「麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でん粉、糖類又は一定の苦味料若しくは着色料」です[5]。米は名指しで許可されています。
麦芽比率の条件も2018年に変わりました。平成29年度税制改正により、ホップと水以外の原料に対する麦芽の比率が67%以上から50%以上へ引き下げられ、2018(平成30)年4月1日に施行されています[5]。同時に果実やコリアンダー等の香味料も、麦芽重量の100分の5の範囲内で使えるようになりました[5]。
比較のために、ドイツ側の線も見ておきます。1516年にバイエルンで制定されたビール純粋令は「ビールは大麦・ホップ・水で造るべし」と定めました[8]。ドイツ醸造者連盟は現在も公式サイトで「それ以来、私たちのビールに入るのは水、麦芽、ホップ、酵母だけです」と掲げています[9]。日本とドイツでは、法が許す原料の幅がそもそも違います。
5系統のラガーを並べて比べる
ラガー(低温でゆっくり発酵・熟成させる下面発酵のビール)を主要な5系統で並べます。数値は BA 2026年版ガイドラインのスタイル規格です[11]。
| 項目 | ドイツ式ピルスナー | チェコ式ペールラガー | アメリカンラガー | メキシカン・ペールラガー | ライスラガー |
|---|---|---|---|---|---|
| 起点 | 純粋令(1516年・バイエルン)の系譜[8] | 1842年10月5日、ピルゼンの市民醸造所で最初の一釜[10] | 米国での副原料ラガーとして定着 | 淡色ラガーの中南米での展開 | BA が2026年に独立スタイル化[12] |
| 副原料の扱い | 使わない(水・麦芽・ホップ・酵母のみ)[9] | 麦芽主体(規格に副原料の記載なし)[11] | コーン・米・糖類をよく使う[11] | コーンや米で軽さを出すことがある[11] | 米を15%以上[11] |
| ABV | 4.6〜5.3% | 4.1〜5.1% | 4.1〜5.1% | 4.5〜5.0% | 4.0〜6.0% |
| IBU(苦味) | 25〜50 | 20〜45 | 5〜15 | 15〜22 | 15〜30 |
| 色(SRM) | 3〜4 | 4〜7 | 2〜4 | 3〜5 | 2〜6 |
| 代表例 | —(本記事では個別銘柄を未確認) | ピルスナー・ウルケル[10] | バドワイザー/クアーズ・オリジナル/ミラー・ハイライフ[14] | コロナ・エキストラ[15] | アサヒスーパードライ[1]/キリンラガー[2]/サッポロ黒ラベル[3] |
チェコの起点について補足します。プルゼニュスキー・プラズドロイ社の公式サイトは「1842年10月5日、新しい市民醸造所で醸造家ヨゼフ・グロルが、やがて世界を席巻する新しいピルゼンビールの最初の一釜を仕込んだ」と記しています[10]。ただし同社の公式ページ内に「世界初の淡色ラガー」と断定する表現は確認できませんでした。本記事では初期の淡色ラガーのひとつという位置づけに留めます。
「軽い」は欠点ではなく設計です
BJCP 2021 ガイドラインの International Pale Lager(2A)の代表銘柄には、アサヒスーパードライとコロナ・エキストラが同じリストに並んでいます[15]。国も歴史も違う2本が、同じ棚に入る。副原料で軽さとキレを作るという設計が共通しているためです。
そして BA の Rice Lager 規格は、その軽さの内訳を米の品種差にまで開きました。「使う米の品種によって、クリーンで中立なものからナッツ様・出汁様・華やかな香りまで幅がある」とガイドラインは述べています[11]。ワールド・ビア・カップ2026の受賞例も、米シロップ固形物を使う設計と生米を15〜17%仕込む設計に分かれました[13]。同じ「米入りラガー」でも到達点は一枚岩ではありません。
ここまで整理すると、日本のラガーの位置づけは変わります。ドイツの純粋令から外れた劣化版ではありません。原料制約という歴史的事情を出発点にして、澄んだ色と短い余韻へ最適化されてきた一系統です。2026年にスタイル名が与えられたことで、比較の土俵がようやく揃いました。
米を使う場合、麦芽の酵素で糖化させる必要があるため、生米は別途炊いてから麦芽と合わせるダブルマッシュが基本になります。BA 規格の15%を目安に配合比を決め、アルコール度数の見積もりはrihobeer の醸造ツールで事前に確認しておくと設計がぶれません。
よくある質問(FAQ)
ライスラガーとは何ですか
ブルワーズ・アソシエーションが2026年版ビアスタイルガイドラインで新設したスタイルで、米を15%以上使って造られるラガーを指します。ABV 4.0〜6.0%、IBU 15〜30、色は SRM 2〜6 が規格です。ホップが突出するものは別のホッピーラガー部門に分類されます。
米が入っているとビールとして格下なのですか
格付けの問題ではありません。日本の酒税法は米を正式な副原料として認めており、麦芽比率50%以上ならビールと表示できます。またブルワーズ・アソシエーションはライスラガーを独立スタイルとして審査対象にし、ワールド・ビア・カップ2026では91点のエントリーを集めました。
なぜ日本の大手ビールは米やコーンを使うのですか
出発点は原料事情です。国内では遅くとも明治30年代に米が副原料として使われ、1940年の酒税法改正では米不足を背景にでんぷん類の使用が認められました。1944年には米も使えなくなり、味は淡白になります。戦後に制約が外れても濃厚な味へは戻らず、その味が定着したと記録されています。
日本のラガーはすべて米を使っているのですか
違います。キリン一番搾り生ビールの原材料表示は麦芽とホップのみで、米・コーン・スターチは入っていません。同じメーカーでもブランドごとに設計が分かれます。缶や瓶の原材料表示を読むのが確実です。
ライスラガーと日本酒は近いお酒ですか
米を使う点は共通しますが、糖化の仕組みが異なります。ビールは麦芽が持つ酵素ででんぷんを糖に変えるため、副原料の米も麦芽の酵素で分解されます。日本酒は麹菌の酵素を使います。原料が重なっていても、製法系統としては別のお酒です。
海外のクラフトビールでもライスラガーは飲めますか
飲めます。ワールド・ビア・カップ2026のライスラガー部門では、シアトルの Cloudburst Brewing が金賞を獲得しました。銅賞はオレゴン州の pFriem Family Brewers「Japanese Lager」で、生米を15〜17%配合していると公表しています。
📚 出典・参考情報
- 【一次】アサヒビール「アサヒスーパードライ|ビール類|商品情報」 https://www.asahibeer.co.jp/products/beer/superdry/superdry.html(2026年8月1日確認)
- 【一次】キリン「キリンラガービール 350ml 缶|商品・品質情報」 https://products.kirin.co.jp/alcohol/beer/detail.html?id=2456(2026年8月1日確認)
- 【一次】サッポロビール「サッポロ生ビール黒ラベル|ビールテイスト」 https://www.sapporobeer.jp/product/beer/kurolabel/(2026年8月1日確認)
- 【一次】キリン「キリン一番搾り生ビール 250ml 缶|商品・品質情報」 https://products.kirin.co.jp/alcohol/beer/detail.html?id=2443(2026年8月1日確認)
- 【一次】国税庁「平成29年度税制改正によるビールの定義の改正に関するQ&A」(平成30年3月・令和元年9月改訂, PDF) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0018004-031_01.pdf
- 【二次】キリン歴史ミュージアム「日本人のビールの好み(4)淡白になった国産ビール」 https://museum.kirinholdings.com/history/theme/b14_03d.html
- 【二次】キリン歴史ミュージアム「日本のビール醸造の開拓者たち・中川清兵衛」 https://museum.kirinholdings.com/person/beer/01.html
- 【一次】東京国税局「ビールの原料って??」(お酒に関する情報・テーマ07) https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/sake/seminar/r5/2305/material.htm
- 【一次】Deutscher Brauer-Bund「Reinheitsgebot」 https://brauer-bund.de/reinheitsgebot/
- 【一次】Plzeňský Prazdroj「History」 https://www.prazdroj.cz/en/our-story/history
- 【一次】Brewers Association「2026 Brewers Association Beer Style Guidelines」(PDF, Rice Lager / American-Style Lager / Mexican-Style Pale Lager / German-Style Pilsener / Czech-Style Pale Lager の各項) https://cdn.brewersassociation.org/wp-content/uploads/2025/12/19140641/2026_BA_Beer_Style_Guidelines.pdf
- 【一次】Brewers Association「2026 Beer Style Guidelines Now Available」(2026年1月13日) https://www.brewersassociation.org/association-news/2026-beer-style-guidelines-now-available/
- 【一次】Brewers Association「Rice Lagers: Tips from World Beer Cup Award Winners」(2026年5月5日) https://www.brewersassociation.org/insights/rice-lagers-tips-from-word-beer-cup-award-winners/
- 【一次】BJCP 2021 Style Guidelines「1B. American Lager」 https://www.bjcp.org/style/2021/1/1B/american-lager/
- 【一次】BJCP 2021 Style Guidelines「2A. International Pale Lager」 https://www.bjcp.org/style/2021/2/2A/international-pale-lager/
- 【二次】Untappd スタイル一覧「Lager – Japanese Rice」 https://untappd.com/beer/top_rated?type=lager-japanese-rice
この記事が気に入ったら、「Next Pint!」ボタンを押してください!
rihobeerをフォローする
Instagramでは最新記事をいち早く配信、Xではビール情報をリアルタイムに発信しています。

ビール醸造のプロも愛読!ホップの魅力がわかる『THE NEW IPA』
歴史好き必見!『ビール大全』で深掘り
『ビールのつくりかた大事典』で醸造プロセスを学ぼう
Twitterで新着情報を受け取る


